9/6 オセロー@新橋演舞場
まだ公演中、さらに原作はかの有名なシェイクスピアということで、今回はあらすじにはとかに触れず、思ったことをぶわーっとする感想レポとします。
※一部ネタバレを含みます。※
正直なところ、神ちゃんの演技を見るのは楽しみだったものの、オセローという作品に関してはさして期待をしておりませんでした。
なんだか復讐劇らしい
なんだか小難しそう
そもそもシェイクスピアって………?
きっと素晴らしく歴史的な作品なことに変わりないだろうけど、事前にあらすじを見ても、劇場内で買ったプログラムのあらすじを見ても、頭に入って来ず、「作品についていけるか」が一番の懸念でした。
しかし、そんなことはまったくの杞憂でした。
個人的には、プログラムを見て登場人物やあらすじを、わからなくても頭に入れておいたことで一気に見やすくなった気がします。
また、作品自体も、一幕35分→休憩15分→二幕60分→休憩30分→三幕85分といった形で、とっつきにくい一幕を短めに、頭の整理をしてから二幕、三幕とまくし立てるように進んでいく構成になってるので、そこもすごく良かったなと思います。
とにもかくにも神ちゃんの演じるイアーゴーが、神ちゃんがほんっとうに素晴らしくて、神ちゃんがこの作品に出会って良かったと思いました。(自担自軍が素晴らしい作品に出るたびに出る口癖)
初日前からずっと、あまりのセリフ量とストーリーに「あの神ちゃんがへこたれてる(ニュアンス)」ということを聞いていたのですが、仕上がりは想像以上。
オセローという作品自体、イアーゴーの語りや目線、言動を中心に進んでいくので、イアーゴー役がポシャってしまうと一気に台無しになってしまう作品なのだと思うんですが、そんな重い大役を、神ちゃんはこの上ないほど素晴らしくやり遂げたと思いました。
膨大なセリフ、まくし立てる迫力。
でも、あの舞台で一番スパイスとなってたのはイアーゴーの表情だったと思います。
結構な良い席でさらに双眼鏡を装備してイアーゴーを追いかけてたんですが、表情がすごい。
・一幕終わり、会合後の長テーブルに横たわって地球儀を弄ぶ優雅な姿と、幕が降りる直前の笑み
・二幕初めの、オセローに向けた忠誠を誓う顔と、復讐を目論む顔の切り替え
・祝杯の席で、酔ったキャシオーをなだめつつ「やれやれ」と口を拭う姿と、思惑通りに進む計画への笑み
・階段上からキャシオーを見下した後、心配そうに駆け寄る表情の切り替え
・デズデモーナがオセローに対し、キャシオーの副官復帰を頼むシーンでの顔
・三幕の目の下のクマと乱れた髪型
(三幕では、復讐を果たすこと自体が目的になってしまっており、人相や見た目か変わってしまっていた)
・カーテンコールで芝翫さんに手を持ち上げられてぶんぶん手を振る"神ちゃん"の可愛さ。
場面によってではなく、毎秒表情が変わるのが本当にすごくて、オセローやキャシオー、ロダリーゴなど、全員を味方につけた上で全員を裏切るしたたかさを、言葉の通り裏と表の顔を使い分けて表現しているんだと思います。
本当の意味で誰を味方につけることもない、一点の曇りもない悪役なので同情の余地はないはずなのに、その悪の最たる姿に魅力を感じてしまうのはきっと神ちゃんの演技力の賜物なんだろうなと思います。
よくあるヒールの、「本当は悲しい過去があって悪役にならざるを得なかった」「復讐相手にまだ忠誠心が残っていて、あるいは良心が残っていて、完全に復讐を果たすことができなかった」というようなことは一切ないわけです。
同情するとすれば、「副官になれなかったこと。」ではあるけれど、それにしても
・恋心を利用されて全財産と命まで奪われたロダリーゴ
・夫イアーゴーの復讐心に利用され、慕っていたデズデモーナが死ぬきっかけを作ってしまった挙句イアーゴーに殺された妻エミリア
・純粋なキャシオーへの良心とオセローへの尊敬・愛を持って取った行動によって、最愛のオセローに疑われ殺されたデズデモーナ
・一番の信頼を置いていた右腕イアーゴーに最後まで騙され、裏切られ、最愛のデズデモーナを疑い、苦しみ、自害してしまったオセロー
副官という地位やプライドが、これだけの信頼と命を全て奪うに値するとは思えないわけで、そう考えるとやはり圧倒的な悪な訳です。
しかもこれは私は理由が全くわからなかったのですが、ラストシーンではイアーゴー以外の全ての人が殺されて終わるんです。
なぜこれだけの悪を働いたイアーゴーだけ生き残る?と疑問に思ったんですが、それでもイアーゴーが生きていて良かった気さえするわけです。
神ちゃんのファンだから、ということが一番ですが、作品の中のイアーゴーとその完全な悪に魅了され、さらには自己投影したからこそ、生きていたことに安堵したんではないかなと思います。
実生活でこれほどの悪を、命をかけて計画、実行することは一生ないと思います。
だからこそ、作品の中だけでも絶対悪を完成させてほしいと、自分に重ねて願ったんだと思います。
完全な悪は、時に薬になるのかもしれません。
そんなことを考えてしまう、神山イアーゴーでした。
カーテンコールでは、神ちゃんの姿を見て涙が出ました。素晴らしすぎて。誇らしくて。
ストーリーで泣いたことはあるけど、演者に対して涙したことはないと思います。
決して安い値段ではないけど、一見の方はあると思います。
舞台は一度きり。円盤化されることはごく稀だし、終演後に観たいと思っても時すでに遅し。なんて後悔する前に、少しでも気になってる方には是非観てほしい!